2016年10月23日(日)に行われた日本シリーズ第2戦でクロスプレーがあり、リプレー検証の結果、判定が覆りアウトだったものがセーフとなりました。
この日、我が家の息子たちがやっている少年野球の今シーズン最後の公式戦で、私は球審(主審)をしていましたが、野球に限らずスポーツの判定が覆るというのは、余程のことがなければ覆りません。今回はその「余程のこと」だったということでしょう。
少年野球で球審や塁審をする者として、今回の判定はとても興味深く、今後のジャッジの参考にしたいので、この「リプレー検証」を検証してみます。
リプレー検証に至るまでの過程
まずは、プレー内容とリプレー検証に至るまでの過程を確認します。
イニングは6回裏、同点でノーアウト二塁の場面。バッターは広島の菊池涼介内野手。バントの構えからバスターで打ち、レフト前ヒット。
二塁ランナーの田中広輔内野手が三塁を蹴って、本塁へ突入。
日ハムのレフト、西川遥輝外野手がホームへノーバウンドの好送球。クロスプレーの末、判定はタッチアウト。
しかし、ここで広島の緒方監督が日本シリーズ史上初となるリプレー検証を要求。結果、判定が覆り、一転してセーフに。この1点が決勝点となったのでした。
【アウト?】日本シリーズ初のビデオ判定【セーフ?】
判定の争点
関連する記事等を読むと、今回の判定の争点は以下のようでした。
- キャッチャーが、ランナーの頭にタッチしたのでアウト。またはタッチしていないからセーフ
- キャッチャーが、ランナーの頭にタッチしたように見えるが、グラブではなく手首や肘などグラブ以外でのタッチなのでセーフ
- キャッチャーが、ランナーの頭にタッチしたように見えるが、グラブのベルト部分とか、グラブの主要部分ではないので正規のタッチと見なさずセーフ
ランナーの頭にタッチしていると思われる
まず、一番の争点は「キャッチャーがランナーの頭にタッチしているかどうか」です。
いろいろ見ていると、やはりこれは「タッチしている」と見るのが妥当と思われました。
以前、YouTubeにあった動画ではキャッチャーのミットがランナーの頭に当たっている様子が分かりました。
スポニチ Sponichi Annexの記事
こちらの記事では、キャッチャーのグラブがランナーの頭に接触している瞬間の写真が掲載されています。
<広・日>6回無死二塁、菊池の左前打で本塁突入する二走・田中(左)。捕手・大野がタッチしているようにも見えるが、判定が覆りセーフに
2ちゃんねるで紹介されていたgif画像
キャッチャーのグラブが、ランナーの頭にタッチしている瞬間を繰り返し見ることができるgif画像です。
画像のURLをご紹介します。
i.imgur.com/99vgGqK.gif
i.imgur.com/e0EOpWj.gif
i.imgur.com/9wSWydK.gif
これで「セーフ」とは無理があるのではないか?
このような動画や画像を見ると、ミットがランナーの頭にタッチされていると判断するのが妥当ではないでしょうか。
他の角度から見るとタッチされていない、という意見を目にしましたが、他の角度で見てタッチしていないように見えても、これまでご紹介した動画や写真ではタッチしていると判断できるので、セーフとするには無理があると思われます。
また、前述の争点の内、残りの2つである「キャッチャーがランナーの頭に接触しているとしても、グラブではなく手首や肘」「グラブの主要部分ではない」という点についても、先ほどご紹介した写真では、少なくともグラブの手をいれる付近で接触しています。
野球のルールは『公認野球規則』で書かれていることが全てですが、タッチに関しては「タッグ(触球)」という表現が使われ、タッグの定義は以下となっています。
野手が、手またはグラブに確実にボール保持して、その身体を塁に触れる行為、あるいは確実に保持したボールを走者に触れるか、手またはグラブに確実にボールを保持して、その手またはグラブを走者に触れる行為
このようにグラブの場所は定義されていないので、ルール上ではグラブを構成する箇所が触れたのであれば、例えグラブのヒモにかすっただけでもタッチとみなされると私は認識していたのですが、もし違うようでしたら教えてください。
余談ですが、死球(デッドボール)のルールでは、バッターがボールを避けようとしたのであれば、ユニフォームにかすっただけでも死球となります。
それでは、なぜ判定が覆ったのか?
これらの動画や画像を見る限りでは、タッチアウトだと思われます。
ただ、球審はこの「頭にタッチしていた」という部分を見て、アウトをコールしたのではないのだろうとも思います。
これは私の推測ですが、恐らく審判団は前述の動画や画像のような角度からの映像は見ておらず、また、テレビ中継でも流れていた、ランナーの頭にタッチされていた場面を見落としたのだと思われます。
そうなると頭以外のタッチができたかどうか、が争点となりますが、テレビ中継で流れていた映像では、頭以外でタッチできていたとは確認できないため、アウトからセーフにせざるを得なかったのでしょう。
実際の状況はこうだったと思われる
テレビ中継や、これまでの動画、写真を見ると、現場では以下のような状況だったと私は推測しています。
- キャッチャーがレフトからの送球を捕球し、ランナーの身体にタッチしようとした
- すると、キャッチャーのミットの手を入れる付近が、先にランナーの頭に当たっていた
- キャッチャーはランナーの頭に目掛けてタッチをしようとしている訳はなく、身体にタッチしようとしていたので、引き続き動作の流れでタッチをしようという流れになっている
- キャッチャーは頭以外はタッチできていない
- 先にランナーの頭に(予期せず)タッチできていたので、ランナーはアウトであった
- 球審は頭にタッチしていたことを瞬間に見抜いてはいないものの、タイミング的には完全にアウトだったことは明確だったので、キャッチャーミットがランナーに触れたであろうと判断してアウトにした
- 広島の緒方監督がリプレー検証を要求
- 球審をはじめ、審判団はリプレー検証時に頭にタッチしていたことに気づかないまま、映像を検証してキャッチャーがタッチできていないことを確認し、判定をセーフに変更した
リプレー検証の結果、“誤審”になってしまった初のケースではないか
今回のリプレー検証は、リプレー検証をすることによって、(結果として)正しかった判定が、“誤審”になってしまったという珍しいケースではないかと思われます。
もしかすると初のケースかもしれません。
日本シリーズではリプレー検証が初とのことですが、ペナントレースで同様のことが、かつてあったのでしょうか?
試合後、審判団が前述の動画や画像を見ていたとしたら、「誤審だったな」と内心思っているかもしれませんね。
ただ、あの場面で球審が、ランナーの頭にキャッチャーミットが当たっているというのを認識するのは、相当難易度が高いと思われます。
リプレー検証で、頭のタッチの部分が審判団で協議できればよかったと思うのですが、この部分の協議はされなかったのでしょうかね?
リプレー検証の際、審判団が映像を見て協議している模様を、球場のモニタとテレビ中継でリアルタイムで流すと面白いなと思うのですが、審判団としてはやりづらいですよねw
リプレー検証中の内容を知る由もありませんが、そんな術が存在するなら、誰か教えてください。